ロマン派のシュトゥルム・ウント・ドランクではないが、思春期の子どもたちの煮えたぎるパッションや激しく揺れ動く心情、あるいはひたすら純にのめり込む思い……。当の本人には決して心地よいものとは言えないが、傍から垣間見る老境の身にはなんとも羨ましい限り。あんなふうに一途になれたらなぁ……。と憧れと羨望の眼差しで見入ってしまう。肉体的にも、まだ完成されていない未熟さは、右肩上がりの成長のエネルギーを内から発していて、本当に美しいと感嘆するのだわ。ひょっとすると、高校野球や春高バレーを熱心に観戦する大人の中にはイヤラシイ意味でなく、本当に憧憬の気持ちに溢れている人たちも、少なからず居るのでは? と思ってしまったりもする。

 9月20日に公開の始まった『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』は、昨年、アメリカでたった4館での公開だったものが、わずか3週間で1084館に拡大したという逸品。

 今日の学校は友だちとの新たな出会いが生まれる場所とは言い難い。それぞれの興味のある事、やろうとする事が多種多様になって、一人ひとりの目指す方向がバラバラで、集団としてのまとまりを持たなくなったため、スクールカーストという言葉に象徴されるように主流派からはずれた子どもたちは暗~い毎日を送らざるを得ない。TVシリーズの「ヴェロニカ・マーズ」の中でも、何となくそんな雰囲気を感じていた……。

 学校でのキッカケを持てなかったケイラは、学校ではひと言も言葉を発しないネクラな生活を送っていたが、生まれたときからSNSのある中で育った彼女は、不器用な自分を変えようと毎夜、動画を発信している。でも、フォロワーはほぼ皆無。自分を励ますようなポジティブな内容だが、それは現実の自分とはますます乖離することになっていく。

 理解のある父親は社交性の無い娘のことを本気で心配しているが、何かを無理強いするのではなく、優しく見守っている。

 そんな中での中学卒業前一週間を綴ったこの映画は、特殊な環境ではなく、ごく一般的な中学生の姿を映し出している。誰もがどこかで共感する内容に思わず感動するが、やや地味かも……。

 ここはボー・バーナム監督のインタヴュー記事でも読んで雰囲気を高めましょう。

 DVDを見るなら、『バーバラと心の巨人』がお薦め。バーバラの方はもう少しイタい存在。学校でトラブルばかりひき起こす彼女は巨人が海から責めてくる! と訳の分からない事ばかり言って周囲を振り回すが、そこまで巨人退治に執着するのは、ある人を守るため……。映画の中盤には筋は読めてしまうが、その必至な奮闘ぶりに思わず涙してしまった。一度、観てみてください。

 

 

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fat mustache

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