先に記した『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に出演予定で本の読み合わせまでしていたバート・レイノルズが2018年9月に82歳で亡くなった。その彼の最後の主演映画を前田有一氏が評論しているのを見かけてしまったので、思わず劇場に足を向けてしまった。

 私にはタフガイでアクセルを目いっぱい踏み込むイケイケの強引さだけが印象に残ってしまい、心を打つシリアスな役者とは到底思えなかった。全盛期を過ぎると、どうしてるんだろう? ってな感じでさほど気にもかけずに見過ごしてきた。なにしろ後続のブルース・ウィリスやシュワルツェネッガーに老いが目立ち、今やドゥエイン・ジョンソンやヴィン・ディーゼルが闊歩する時代。それ以前のマッチョマンに需要があるはずもなく、演技派へのキャリアチェンジを迫られているのだろうって考えるくらい……。

 その彼が、落ちぶれたスターという役柄をユーモアたっぷりに演じている。かつては映画界のスーパースターとして一世を風靡したが、今では人びとからほぼ忘れられている状態のヴィック・エドワーズのもとに、ある映画祭から一通の招待状が届いた。功労賞を送りたいという映画祭にしぶしぶ参加したが、これがトンデモ映画祭。片田舎の変わり者が仲間内でやってる名もないイベントだったのだ。場末のモーテルに宿泊させられ、送り迎えは主催者の妹が運転する動いているのが不思議というようなボロ車。座席にはゴミが散乱し、運転しながらメールを打つ始末。頭に来て帰ろうとした時、故郷のノックスビルに近いことを知る……。

 これって、本人の境遇、そのまんまじゃないかと思わせる設定。

 過去の栄光やプライドにしがみついていたら、出演をOK するはずもない強烈な見え方。ほとんどの人がそうだろうなぁと頷いているのが目に浮かぶ。その凋落ぶりを笑うコメディの前半。しかし、故郷ノックスビルで最初の妻の居る療養施設を訪れる頃から色合いが違ってくる。地元のスポーツヒーローとして人気を博した彼は芸能界に打って出る夢に全てを賭け、妻を棄てている。

 あの時の選択が違っていれば……。その後の人生でも何度も訪れた岐路を振り返りながら、自分の下した結果を振り返っていく。もし、あの時……。もし、あの時……。

 この振り返りは悔悟の念に苛まれるというものではなく、自分のたどった道のりを確かめながら、今、在る自分に為せることを考えさせてくれるものだった。ヴィックは今、この時、自分が為し得る最良の選択を歩もうと心に決めるのだった……。

 今更、過去を悔やんでもどうにもならない。しかし、心静かに思い起こすことで、これから先、為すべきことをハッキリ感じることができるのだと思う。老境に入って、人生終わったと嘆いている人たちに見てもらいたい。過去は変えられないが、明日は変えられる。……なかなか考えさせる佳作でした。

 本人の凋落ぶりとかぶって見てしまったのは『レスラー』も一緒。ミッキー・ロークはどうしてるんだろう? お肌ツルッツルッになったというニュースを見たような……。ゴメン、『ラスト・ムービースター』は、まだ上映していない所がたくさんあった。……悪しからず。

 

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fat mustache

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