ブレグジットの行く末が困惑を極める今日のイギリスを見ていると、哀惜の念に堪えられない雰囲気になってしまいます。七つの海を制覇した大英帝国の凋落ぶりは目を覆うばかり。片田舎のどんな小道さえも舗装されているとか、揺り籠から墓場までとか、社会インフラの充実ぶりや行き届いた社会保障に憧れた幼少期がウソのように思えます。

  私の少年時代までは、輝けるポンドは強大で、1ポンド=1,008円で換算されていました。今は133円くらいですかな……。

  その懐かしい当時を綴った『ガーンジー島の読書会の秘密』を公開初日に観ることができた。イギリス海峡のチャネル諸島にある英国王室直属領と言われてもピンとこないが、第二次大戦中はドイツ軍に占領されていたらしい。大戦後間もなく、戦中にそこで開催されていた読書会に魅了された女流作家を主人公にしたミステリー。

 70年以上前の光景を再現するのは至難の業。おそらく、町並みや郊外の情景をパンしながら撮れるのは、ここ数年の間だけのように思う。開発の波にさらされて失われていく詩情あふれる光景をなんとかフィルムの中に収める最後の機会を活かした作品だと思う。用いる小道具やセットも調達が難しくなり、そのうち、街路を走る車もCGに頼らざるを得なくなりそうだ。それでいて、当時を鮮明に覚えている人びとも多く存在する。おそらく映像化するのに最も苦労する時代なんだろうなぁ、と考えてしまった。

  今ほど物質的に恵まれてはいないが、近隣の人びととの深い繋がりや互いに思いやる心情にあふれた懐かしい地域社会が映し出されている。

  この雰囲気とよく似た『マイ・ブックショップ』と比べると、約10年ほどの時間差はあるものの、映し出される風景は、とてもよく似ている。ともに全体に漂うノスタルジックなトーンが年配者には心地よく、若者なら憧れの田舎暮らしに思えて、ゆったりと心落ち着けて観ることができるだろう。ただ両者の結末は対照的。

  そうあって欲しいハッピーエンドを迎えるガーンジー島と違って、ブックショップは地元有力者の陰湿とも思える妨害で閉店に追い込まれる。ただ、それは権力に屈服した苦い思い出だけを伝えるのではなく、主人公の気持ちを受け継ぐ者の存在をラストに明らかにし、女性の地位向上や社会進出が一朝一夕には実現しなくとも、確かな意思は次代の人びとに勇気をもたらすことをさりげなく訴えている。このイザベル・コイシェ監督の視点は、決して声高に訴えるものではないが、繊細な感性と細やかな演出、静かに語りかけるように教えてくれる様々な問題点。ついつい自分でもう少し調べて考えてみようか、と思わせる説得力。

  どうやら、後者に軍配は上がりそうですなぁ……。  ところで、社会矛盾にガナリたてるように挑戦するのがケン・ローチ。『マイ・ブックショップ』の対局にあるのは『わたしは、ダニエル・ブレイク』かも知れません。

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