第79回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、DCコミックスの映画化作品としては史上初めて、最高賞の金獅子賞を受賞した『ジョーカー』は10月4日、日米同時公開となったトンデモ映画。なんでもアメリカでは半年に一回くらい、世間をお騒がせする映画が登場するらしいが、これはその程度では済まないほど、たいへんな物議を醸し出しているらしい。この映画の視点が、今までよくあった抑圧されたマイノリティーの奮闘物語とは違って、虐げられているには違いないけど、白人が不当に迫害されているという所にあることが問題になるところなのだろう。

 まず、マーベルの一連の大成功と裏腹にDCの映画化が製作方針を迷走させてコケまくったことから、対象を子どもたちから大人まで広範に据えて、万人が心地よく没頭できるエンタメ作品に訣別し、コミックの枠をはずれて、題材は依拠するものの全く独立した映画作品として作ったということだ。原作を持たないコミック作品ということになるのかな? というより、痛快アクションとは真逆の社会問題を提起するような硬派のダークな雰囲気を持った映画ということになるのだろう。

 ますます拡大しつつある経済格差は、中流以下の白人層を貶める一方で、その溜まりに溜まった鬱憤をはらす方向を富裕層に向けようとする仕掛けにおののく進歩的白人層の顔が目に浮かぶ。ギリギリの生活を送っている人たちにとって社会サービスの打ち切りは生死に関わる問題。

 失業率は低下しているというが、現業の職場で働く人にとっては、いつ首を切られても不思議ではない状態が続き、移民に限らず多くの人種や民族が競合するようになれば、給与水準は下がるばかり……。極端なストレス状態のなかで苦しくなる一方の生活……。資格を得ようとすれば莫大な投資が必要で、教育ローンを組めば、その返済に追われるばかり……。

 その蟻地獄状態を脱する有効な方法は全く示されてはいない。オバマケアは極貧有色人種の救済には寄与するかも知れないが、彼らのためにより大きな負担を強いられる中流白人には、一体何が改善されたのか? トランプは農業経営者には優しいが、白人サラリーマンにはどんな恩恵をもたらしたのか? 金持ちからはカネが取れず、人気取りのため、目立つところだけケアする政治にいい加減キレ始めてもおかしくないと思うけど……。

 要は白人至上主義と決めつけて攻撃し続けたマスコミや知識層に対して、今まで声を上げなかった最も一般的な白人たちが反撃し始めたってことだろう。この映画のテーマ、視点が正中を射ているために、冒頭にリンクさせたようなアメリカの映画批評に繋がったと思う。

 ここは、もう少しマイルドに前田有一氏のものを参考に……。さらに、氏も指摘するように『ダークナイト』や『バットマン・ ビギンズ』を観といたほうが良いのかも。ただ、私には架空ゴッサムシティが現実とかぶって、とてつもなく暗~い雰囲気に陥って、何度かスイッチを切ってしまいましたが……。

投稿者

fat mustache

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です