『象は静かに座っている 』を観てしまった……。234分もある映画を一体どんな人が観に来るんだろうと、劇場の中で周囲を目をこらして見回してみると、これが結構な入りで、しかも好き者ばかりが集まっていたみたい。マナーは最高で、エンドロールが終了するまで席を立とうとする人がいなかった。というより、誰もすぐに立てる状態になかったということ。さすがに4時間はキツい。みんな放心状態だったのだ。

 フー・ボー監督の遺作となった人間ドラマという触れ込みだが、彼の自殺の原因がプロデューサー・サイドの大幅な時間短縮の提案にあったなんて言われてしまうと、ノーカットで観ないわけにはいかない。誰もが心して座席についたということになるらしい。

 自らの短編小説の映画化らしいが、なぜこんな長時間に及ぶ映画になったのかというと、長回しを連続させて、編集できる余地を残さなかったからかも知れない。表に出る映画はことごとく当局の検閲を受けなければならない中国では、ほんのささいな点でも共産党の意に反することを入れ込むことはできそうもない。もちろん画一的な方法だから工夫すれば、それなりのメッセージを織り込むことはできるのだろうが、そんな手段を多用すれば肝心の話の筋立てが壊れてしまう。かといって、唯々諾々と当局に尻尾を振るような駄作を濫発しても制作者の気持ちは沈み込むだけだろう……。

 ってことは検閲によるカットの痕が露わになる長回しを多用することで表現のアイデンティティを確保しようと試みたということではなかろうか。

 演ずる役者たちにも、製作スタッフにもかなりの負担を強いることになるが、そんな手法を採らざるを得ない中国の現況が痛いほど画面にあふれ出ている。グローバルな現代社会では、経済的に豊かになるのであれば多少の制限を受け入れようとする傾向があったり、スピーディーな決断、決定で有利に事を運びたいと願う実業界の人びとが増えてくると、強権的な独裁体制を渇望する風潮が頭をもたげてきているような気がしてならない。

 煩雑な許認可作業で中華系に遅れをとったり、ワンマン経営者の強引な運営がたまたま功を奏したりすると、思わず、まどろっこしい方法に嘆息するが、本当に自分が失ってはならない大切な物は何か、チャンと考えて行動しないと……。

 どんなに長時間でも観るッ!! っていう意気軒昂な方には独立系の旗手、ワン・ビン監督の長編ドキュメンタリー『鉄西区』がお薦め。1~3部合計で545分。お正月休みにでも頑張ってみては?

広告
著者

fat mustache

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です