『ナイヴズ・アウト』を観てきた。なるほど、良く出来た密室殺人ミステリーだった。しばらくの間、イギリスの話だろうと思って観ていたが、車が左ハンドルだったので、ウン? と首をかしげて、やっと納得。広大な屋敷の佇まいといい、陰鬱な空気に満ちた晩秋風景といい、これがNY郊外と思わせるものが全くないッ! 走ってる車もアメ車独特のフォルムを持った物を極力避けて、いかにも日常と乖離した因襲にまみれた伝統的社会を匂わすものばかり……。作者はアメリカの話としながら、畏敬の念で仰ぎ見るクリスティの世界を再現したかったみたいだ。

 話は大富豪の作家が刃傷沙汰の死体で発見され、残された家族とお抱えの看護師に嫌疑がかかるというもの。現場に残されたわずかな物証と彼らの供述だけで真相に迫ろうとするお定まりのパターンだが、観ている側もその推理に付き合わされてハラハラドキドキの連続。こりゃ、おもしろいわッと思わず前のめりになって注視した。

 恐らく脚本も担当したこの監督も感じていたであろう、昨今のミステリーの枯渇ぶり。英米どちらも食指を動かされる作品にお目にかかれず、二、三十年前のものを読み返す毎日。北欧ものには、そこそこ惹かれるものも散見するが、それは異国情緒を加味した上での話。振り返ってみると、因襲に満ちた田舎の光景にルーン文字で記されたような儀式とかが出てくると、なになにってな具合に見入るとか……、戦争のような銃撃テロと違って、せいぜい数人が殺されるだけで終わることになんかチョッピリ安堵感を覚えるとか……、純粋に謎解きだけで満足感を得ているわけではなさそうだ。

 だからこそ、満を持してコレゾ、本格ミステリーっ!! みたいに映像化されると、思わず拍手喝采! 良くやったと褒めちぎることになる。満足感に満たされながら映画館を出たが、これって、白人アメリカ人の欲する原点回帰ってこと? カラードも出演してはいるものの、その割合はごくわずか、私の知る由もない上流社会の内幕だから当たり前かも知れないが、普段感じているアメリカ社会の様子とはずいぶん隔たった様子の家族。……ホワイト・ルネサンスの主張が体現されたかのような白人中心社会。どうやら内側でも分断が進んでいるような気配。そのうち、ゆるやかな連邦制に移行して人びとの移動も制限されるような国になってしまわないか、本気で心配になってきた。

 近年のなかで、この作品と同じように供述だけで展開される話では『インビジブル・ゲスト』が出色。こちらはスペイン。どちらも冷静に考えれば有りそうもないプロットが有るには有るが、そこはエンタメ。素直に見過ごしましょうや。

著者

fat mustache

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