ポール・グリーングラスという人物をご存知だろうか? “ジエイソン・ボーン”シリーズの2作目と3作目、『ボーン・スプレマシー』と『ボーン・アルティメイタム』を監督した人だ。数あるアクションものの中で、身近にあるものを凶器に使って闘うシーンは10年以上経た今でも強烈だ。雑誌をトースターに挟んでガス爆発を起こしたり、建物の屋上から隣のアパートの窓に飛び込んだり、屋上駐車場から車ごと落下して難を逃れたり……。いくつもの場面で戦慄を憶えた。

 その彼に首をかしげ始めたのは『グリーン・ゾーン』(2010年)からか、「なんじゃッ、プロパガンダやんけッ。」と吐き捨ててしまった。極めつけは『ジェイソン・ボーン』(2016年)。「止めときゃいいのに……。」余りの凡庸さになんだか悲しい気持ちになってしまった。多くの前例のように、ついに才能が枯渇してしまったのかッ、と嘆いてしまった……。

 ところで、彼の才能が世間に認められ始めたのは『ブラディ・サンデー』という社会派映画からだ。1972年1月30日、日曜日。北アイルランド、デリー市の公民集会に集まった市民たちに向けてイギリス軍兵士が発砲し、13人の死者を出した「血の日曜日事件」を描いた実話ドラマ。ハンディ・カメラを多用して臨場感を増幅し、デモ側、制圧する警察・英軍の両者の動向を時系列的に描写することでドンドン緊張感を高めていく。

 「ボグサイドの虐殺(Bogside Massacre)」とも呼ばれるこの惨劇でIRAのテロ行為は過激化し、バーミンガム・パブ事件(1974)、マウントバッテン卿殺害(1979)、ハイド・パーク爆破(1982)、ハロッズ・デパート爆破(1983)など、数多くの事件を引き起こしている。2010年6月15日に発表されたイギリス側に非があるとする独立調査委員会の報告書は、あまりにも時をかけ過ぎている。

 この監督経験が米国進出のキッカケになったので、社会批判の姿勢に期待が高まり過ぎたのかも知れない。観る側が勝手に彼の立場を作ってしまったと言ってもいい。

  その彼が久々に撮った実話に基づく映画『7.22』は、またまたNetflix 配信の作品。ストリーミングでしか観ることが出来ないというのがシャクだが、『ブラディ・サンデー』に良く似た趣。ちょうど『ウトヤ島、7月22日』(劇場公開日 2019年3月8日)に食指を動かされた時だったので、観ることにした。

  事件後の被害者にも目を向けているところが目新しいところ。事の顛末だけでなく、裁判に赴く被害者の抱えるトラウマ、恐怖、苦悩……。残された人びと、事件に巻き込まれた若者たちが恐怖や絶望の中で必死に生き抜こうとする姿をリアリズムたっぷりに描いこうとしている。「なんや、二番煎じかいな……。」と『ウトヤ島、7月22日』を観に行くのを取りやめた。

 

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fat mustache

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