私自身が老境? に入らんとしているためか、観客ターゲットを高年齢層に設定した映画にかなり興味を持つようになってしまった。2月に観た『ともしび』は正しくその典型的な作品。おそらく万人受けするものではないと思うが、なにしろ自分自身が身につまされるエピソード満載なので興味深く拝見いたしました。

 シャーロット・ランプリングが、第74回ヴェネチア国際映画祭で主演女優賞を受賞したヒューマンドラマ。ベルギーの小都市で夫と老後を慎ましく暮らすアンナ。だが夫が犯したある罪によって、その生活の歯車は狂い始め、不安と孤独の冷たい雫が彼女に流れ込む。共演は『ル・アーヴルの靴みがき』のアンドレ・ウィルム。

 老境の域に達した夫婦の生活が突然の夫の逮捕で狂いが生じ始め、今まで当たり前のように過ごした日々に疑問を抱かせるようになる。生活のほとんどを夫の言いなりに自分の気持ちを抑圧してきた彼女は、時折通う演劇サークルで澱のようにたまった鬱積を発散して家庭では従順な妻であり続けたが、重しとなっていた夫が居なくなることで初めて本当にしたかったことを思い出す。疎遠となった息子の家族を訪ねようとするが、息子は今までの夫婦の態度から頑なにこれを拒絶する。……。

 自分の思いを相手に伝えようとせず、ひたすら気持ちを押し殺して夫の思いに従ってきたことへの報いがそこかしこから迫って一人で生きることの難しさを思い知らされる様は観ていても辛くなる。淡々とすすむ画面が観る側に勝手に想像させてくれる良い作り方でした。

 シャーロット・ランプリングの評価が高まったのは『まぼろし』あたりからか? 英語とフランス語を違和感なく使い回すスマートさ。全身から染み出る高貴な香り、彼女の出自から自然と振る舞われる仕草の一つ一つに魅了される。50を過ぎた肉体で表現される自慰やベッドシーン! それがチッとも醜悪に映らない。

 決定的になったのは『さざなみ』だろう。結婚45年目の老夫婦に訪れる突然の心のすれ違い。夫が若かりし頃、氷山で行方不明になった元恋人の遺体が発見されたという知らせが届いたことから、恋愛の記憶を反芻するようになり、妻は存在しない女への嫉妬心や夫への不信感を募らせていく……。

 70を越えた老夫婦のベッドシーン! そこまで見せなくても……って思うけど、誰もがベールに包んで話そうとしなかった老後の夫婦生活をあからさまに曝け出して 誰にでも訪れかねない人生の機微を生々しく伝えている。それぞれの邦題もセンスがある。配給会社の心意気を大いに感じる。

 若かりし頃のシャーロットは『愛の嵐』で奔放で隠微な性を体現していたが、印象的なのは『エンゼル・ハート』のマーガレット役。リサ・ボネットによるエピファニーとともに妖艶で謎めいた雰囲気が妙に頭にこびりついている……。

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