公開初日に『ノマドランド』を観てきた……。なにしろ世界で最も長い歴史を誇るベネチア国際映画祭での金獅子賞と、オスカーに最も近い賞との呼び声も高いトロント国際映画祭:観客賞を史上初のW受賞。世界各国のメディアから大絶賛を浴び、レビューサイトRotten Tomatoesで97%Fresh(2021.1.10時点)という破格の評価を獲得したという超話題作。さぞかし多くの観客が……と思いきや、地方のシネコンではたった3人で鑑賞することに……。このご時世、映画どころではないのかも知れないが、寂しい限り。どうにも自分の映像に対する熱量と世間の皆様の視点とのギャップを強く感じてしまいました。このブログももともと自己満足のために立ち上げていて、皆さんのお目にあずかろうなどという考えもなく、その時その時の感情を書き残すことで振り返りのチャンスを作ろうと考えてのことでした。だからどうでも良いっちゃどうでも良いが、月末にオスカーが発表されれば、思わず飛びつきそうな人が何人も出そうで、世間の軽妙ぶりにいささか幻滅感を抱いているところです。

 監督がアジア系の女性とあっては、もう決まったようなもの。作品賞は間違いがなさそうだし、主演のフランシス・マクドーマンドが三度目の主演女優賞を手にしてもおかしくない状況。私のへたな解説より多くの批評家のご意見を羅列した方が良いに決まっている。そこで主なところをいくつかご紹介しましょう。

 まずは町山智浩氏がTBSラジオ『たまむすび』で述べた様子を。いつもお世話になるシネマンドレイクさんのお話を、他にもたくさんあるのだろうが最後はNEWSWEEKコラム、大場正明さんの『映画の境界線』ってとこで締めましょうか。

 ということで、私めは純粋な鑑賞後感を少々。誰しも一度は放浪の生活に憧れを抱くものだ。気ままに行きたい所へフラっと赴き、ただただ景色を楽しみながら時を過ごす……。だが、その生活を続けることは過酷以外の言葉がないほどタイヘンだ。劇中にもあるように排泄の問題も深刻だし、もし暴漢に襲われたら、なんて考え出したら躊躇せざるを得ない。その生活を続けようとする人たちは何を拠り所としているのだろう。

 誰かの施しを受けて落ち着き先を見つけた時、最も心折れるのは心の尊厳。哀れみの眼差しの注がれる中で卑屈にならざるを得ない自分を想像すると、とても辛い。施してくれる人たちの期待に応えるように演ずる仕草や表情。それは悲惨な紛争下に置かれた避難民の見せるあの目つきと酷似する。

 確かにどう考えても大変な状況に陥っているが、自分をそこまで貶めてまでラクをしたいとは思わない。むしろ、持たざる者どうしの間でやり取りされるチョットした小物。使い捨てライターをあげたり、いれたてのコーヒーをもらったり……。決して自分が豊かなわけではないのに他人のために惜しげもなく分け与えられる時、心の安らぎや満足をつよく感じる。

 現代の私たちが失ったのはまさにそういったやり取り。自分も苦しいが、それ以上に苦しんでいる人に差し伸べる手。これは金持ちの施しとはほど遠く違う。私たちが失ったのはこの感覚なのだ。今こそこのことを噛みしめる時。なんとなく遠くに光が見えてきたようだ……。

 おっと忘れていた。クロエ・ジャオ監督の前作『ザ・ライダー』はNetflixでもAmazonPrimeでも見られますヨ。

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fat mustache

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