ミナリ』はオスカー常連のA24とPLAN Bがタッグを組み、サンダンス映画祭で観客賞とグランプリを受賞したという注目の映画。韓国系の監督が1980年代を舞台に農業での成功を夢見てアーカンソーの僻地に移り住んだ韓国系移民の姿を描いている。

 ある批評では『怒りの葡萄』やTVドラマの『大草原の小さな家』と比肩して大自然の驚異に立ち向かう開拓者の様々な驚異に翻弄されながらもたくましく生きる姿を描いていると絶賛しているが、外形的な類似性だけで同類とみなす、あまりに軽薄な考え方に呆れてしまう。この人たちは正しく現代的な考えに立った最も先端にいる人たちなのだろう。それは迷信や俗言を端から否定し、すべての事柄を科学的見地で判断できると考え、生業に農業を選択するのも経済的成功を願ってのことで、そこには大地と向き合う覚悟と自然に対する畏敬の念に欠けている。

 近代社会が猛烈に突き進んできた経済繁栄の道は人類の回りに存在するありとあらゆる生物や環境を我々が対決するもの、力ずくで制御するものと把握し、無理矢理、直線的なコンクリートに変えることが勝利のように錯覚し、世界第2位の広さのあるアラル海を干上がらせた愚行すら自然改良の偉業のように喧伝してきていたのだ。

 私たちに必要なのは自然に対する畏敬の念。その恵みへの感謝、収穫の多寡は自分の裁量ではなく、大自然からのお恵み。わずかであろうと与えられたことに感謝すること、感謝できることに意味がある。それは人間以外のものとの対話、私たちの周りのありとあらゆるものに感情を移入し、共に在ることに喜びを感じること。スピリチュアルにはまったような言い方になってしまっているが、力尽くで対決するのではなく静かに対峙することで共生の一歩を歩み始める。

 周辺の人びとに対する対応もそう。相手に疑い深く疑念の感情を込めて接すれば、その空気というか、醸し出される雰囲気がギスギスして、何とも力と力で対決しているような状態に陥る。私のためを思って良くしてくれていると考えていると、何とも穏やかな空気が流れて、その日一日が充実した気持ちで過ごせるようになる。つまり、科学的思考とやらに翻弄されていると何もかもを即物的に考え、ゲームの勝者にならんと我武者羅に突き進む無間地獄に陥ってしまう……。

 監督自身も気づいているから冒頭とエンディングに水脈を見つけるためのダウジングを配して、この一家が神への祈りに目覚めることを欲しているようだ。

 ちなみに開拓にまつわる映像で印象的なのはNHKで放送された『移住 50年目の乗船名簿』。おととしに放送されたものだが、昭和43年(1968年)に南米各地に移住する人びとを乗せた船を取材した『乗船名簿AR29』というドキュメンタリーを製作した当時32才のディレクターが10年目(1978年)、20年目(1988年)、31年目(1999年)とおよそ10年ごとに取材を続け、50年目の節目に4Kで取材したものだ。大半の内容は成功を収めた人のものになるが、その過程での様々な労苦を映し出し、感慨深いものだった。U-NEXTは観ていないが、NHKオンデマンドになかったので、録画しておかなければ視聴できないが、重みが違う。

 

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fat mustache

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