知らないってことは本当に恐ろしい……。薬物依存は裏社会から供給される「麻薬」によるものだと思い込んでいた私は、立て続けに観た映画で根本から考えをブチ壊された。「医者の処方薬によって薬物依存に陥る!? 」という事態がアメリカでは発生しているらしい。1990年代半ばにオキシコドンという鎮痛剤が、たった38人での治験研究だけに基づいて、依存が発生しない、革新的な薬として広く販売されるようになったんだそうだ。ところが実際の日常生活では、まだ痛みが完全に消えていない人々はより多くを用い、薬物への欲求を増大させるものであった。つまり、依存性、習慣性を高め、過剰摂取の危険性を持ったレッキとした「麻薬」だったってわけだ!!

   製薬産業は医師への豪華な接待や、病院の待合室で再生されるビデオを通じて積極的にマーケティングをし、医師もしばしば時間のかかる痛みの原因の特定よりも痛みを感じさせなくする方がラクだったから、簡単に処方箋を書いていった……。結果、1999年から2011年ではオキシコドンの処方量は6倍となり、世界の81%をアメリカ合衆国で消費するようになったのである。

  「麻薬」という言い方だとコカインやマリファナも範疇に入ってしまうので、鎮痛、陶酔作用のあるケシから採取されるアルカロイドや、そこから合成された化合物、また体内に存在する内因性の化合物を総称してオピオイドと言うらしい。そこにはモルヒネ、ヘロイン、コデイン、オキシコドンなどが含まれる。そういやコデインはセキ止め薬の大量摂取で日本でも問題になっていた。

  違法だからヤバい! と考えるのではなく、アルカロイド系の薬は市販薬や処方薬でも注意しとかないとダメッ!! ってことなんだと思う。2017年にトランプ大統領は、オピオイド危機について、公衆衛生上の非常事態の宣言を発した。

  5月24日から公開された『ベン・イズ・バック』は、この問題を取り上げた映画。クリスマス・イヴの朝、19歳のベン(ルーカス・ヘッジズ)は実家に突然戻り家族を驚かせる。薬物依存症の治療施設を抜け出し帰ってきたのだ。久しぶりの再会に母ホリー(ジュリア・ロバーツ)は喜び、温かく迎え入れた。一方、疑い深い妹アイヴィー(キャスリン・ニュートン)と良識ある継父のニール(コートニー・B・バンス)は、過去の経緯から、ベンが何か問題を起こして自分たちの生活を脅かすのではと不安に駆られる。

  両親はベンに、24時間のホリーの監視を条件に、一日だけ家での滞在を認めた。その夜、一家が教会でのクリスマスの催しから戻ると、家の中が荒らされ、愛犬が消えていた。これはベンの過去の報いに違いない。誰か分からないが昔の仲間の仕業だ。凍てつくような夜、ベンは犬を取り戻しに飛び出す……。問題提起のための一作。最初からエンタメのつもりで作っていない問題作。

  もう一本は『ビューティフル・ボーイ』。ここでの薬物は覚醒剤の一種であるアンフェタミン。日本のシャブはメタンフェタミンで、これはカンペキ違法薬物。ところが、アンフェタミンはアメリカ合衆国では注意欠陥や多動性障害(ADHD)の治療薬として処方され、これの横流しで高校や大学で頻繁に濫用される薬剤のひとつになっている。

  この映画のキモは依存症の息子と見守る父親の両方が文章で表現できるってとこ。二人がそれぞれの視点で綴った2冊のノンフィクションを原作にして作られている。何度も挫折し失敗をくり返す息子(ティモシー・シャラメ)と、自らも奮い立たせて何とか見守ろうとするジャーナリストの父(スティーブ・カレル)を中心に据えた家族の愛と再生を描いたドラマ。

  せっかくの表現力を活かして心の内面の奧底に迫った告白を期待したが、エンドロールの最後に流れる息子の独白にも、その断片を見いだしきれなかった……。ただ、自分の察するところ、感受性の鋭い息子は決して自分の考えを押しつけたり、一定の価値観を植え付けたりしない理想的過ぎる父親のなかに無言の期待を感じ取ってプレッシャーになっていたのかも……。完璧すぎる父を心底尊敬するが故に感じる重圧。少しでも期待に応えんとする時、襲いかかる不安感や焦燥感。現実逃避を渇望すると、目の前にある薬……。こちらも見応えがありましたナ。

  もし、余裕がおありなら、2009年にイギリスの映画雑誌「エンパイア」が発表した「落ち込む映画」ランキングで第1位に選ばれた『レクイエム・フォー・ドリーム』なんかも観とかれるといいかも……。

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著者

fat mustache

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