戦争の真相を少しでも知りたいという欲求が心のなかに定着している私は、ともかく我が身からほど遠い世界の紛争を詳しく探りたいと思う気持ちで一杯だ。最終的には日本の経験した戦争の真相にたどり着きたいのだが、溢れる資料の多さと余りにも皮相な有識者の見解に辟易し、チョットでも考えがまとまるという域には達していない。

 そんな中、今なぜ、この時期に? という疑問は大いにあるが、ボスニア紛争停戦直後のバルカン山岳地帯の状況を描いた『ロープ 戦場の生命線』は興味深い作品だった。もともとは2015年製作だから、20年後に映像化されたことになる。

 自身「国境なき医師団」に参加したパウラ・ファリスという人の原作を映像化したものらしい。国際活動家「国境なき水と衛生管理団」に属する人びとが、ある寒村の井戸にわざと死体が投げ込まれ、汚染して使えないと連絡を受けて駆けつけるところから話は始まる。

 まず、そんな団体を知らない。水に苦しむ人びとが多いのはイメージできるが、ヨーロッパで村全体の水源がたった一つの井戸? ホントか? 思わず、その生活環境の劣悪さに驚いてしまう。死体を引き上げるためのロープ1本が調達できずに右往左往することに、またビックリ! お前等、それくらい用意しとけよッ! と声が出そうになる。

 紛争地帯と言いながら、牧歌的な雰囲気に満ちて、ゆったりと事が運ぶ。ただ、そのすぐ横に砲撃や銃声の鳴り響く戦場がある。全体的には戦争の悲惨さや、壮絶な戦闘シーンを強調する多くの戦争映画とは一線を画して、巻き込まれた一般の人たちに重心を置きながらも、自らの手で立ち上がることを見守る姿勢が貫かれている。

 ユーゴスラビア紛争あるいはボスニア紛争……。ベルリン条約(1878年)来、この地に埋め込まれた地震源。大国の思惑で好き勝手にいじくり回され、いつ、どこで紛争が勃発しても不思議ではない緊張状態。仕掛けておきながら、「ヨーロッパの火薬庫」と冷ややかに嘲笑する大国ら。状況は何も変わっていない。

 日本では先に公開されたが、2016年に製作されたのが『オン・ザ・ミルキー・ロード』。こちらはユーゴの現代史を大胆な比喩と痛烈な体制批判で綴った『アンダーグラウンド』のエミール・クストリッツァが下したボスニア紛争の総括。『アンダーグラウンド』では自国の境遇を外界から隔絶された巨大な地下室に見立てて、国境という障壁をはずすことに積極的だった監督が、大国の軍事介入を新自由主義による後進地域の経済システムへの取り込みであると看過しているように思うのは私だけ?

 この紛争を描いた映画は『ノー・マンズ・ランド』はじめ幾多あるが、出色の1作として、あの『死ぬまでにしたい10のこと』を創りあげた女性3人組、サラ・ポーリー、イザベル・コイシェ、エステル・ガルシアによる第2作目、『あなたになら言える秘密のこと』がありまっせ。知らないのはもったいない。

著者

fat mustache

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