5月31日に『長いお別れ』が公開された。原作へのリスペクトが過ぎるためか、エピソードの羅列に終わって認知症の問題に正面から向き合う姿勢に乏しいように思われる。隣の席からはすすり泣く声が聞こえていたので感激する人も居るのだろうが、もう一歩踏み込んで考えさせてもらっても良かったんじゃないかナ……。

  その中身は、厳格な父が認知症を患い、ゆっくり記憶を失っていく7年間の間に家族が選ぶ未来を考えさせるもの。認知症は誰もが抱える問題。自分に訪れるであろう出来事もさることながら、見守る側に立った時、どうすりゃいいんだろう? と考えるとチョッと足がすくむ。

 加齢による視力や聴力の低下やちょっとした勘違いと発症した時の症状との違いをどう判断するかってのは、私にとって喫緊の課題。本人のためには「ボケた」ことを知らせるのではなく、注意深く見守ることで最期を迎えられないかと願ったりする……。

 ドキュメンタリー映画『毎日がアルツハイマー』の最終章、『毎日がアルツハイマー ザ・ファイナル~最期に死ぬ時』が2018年公開とほぼ同時にDVDも発売された。

 実は、この監督である関口祐加という人に並々ならぬ興味があって、いったいどんなものを作ったんだろうと即、購入することにしました。その興味とは、前田有一氏に触発されて、彼女が作った最初の長編ドキュメンタリー『THE ダイエット!』を観ていたからです。

 ヘアが見えてるデ!! と思わず叫んでしまうほど、ポヨンポヨンの肉体をカメラの前に曝け出して、自虐的に笑いを誘うスタイルが貫かれ、コメディタッチで話は進むが、専門家や精神科医のセラピーを通して自らの内面に踏み込んでいく……。なぜ太っていったかを幼少期にまで遡って考える場面になるころには肥満はヤッパリ肥満症という病気なのかと深刻に考えた。

 その人が撮るアルツハイマー症ってのは、どんなんだろう? 前2作と併せてイッキ観してしまった。

 認知症の症状が現れ始めた母の介護をしようと決意し、永らく滞在したオーストラリアから帰国した監督は2009年から母との日々の様子を映像に収め、YouTubeに投稿を始めたらしい。2012年にそれらをまとめたものを『毎日がアルツハイマー』として発表。そこに見られる明け透け感は尋常ではないッ!

 まずもって部屋の汚さ、乱雑さ。俺んちの方がまだマシだよ! って思う散らかりよう。でも、そこには人に見られるのだから少しはキレイに…なんて、これっぽっちも考えない潔さを感じる。訪れた専門医が思わず口にするほど乱れた室内。ありのままの生活を見せることで、まったく脚色のない等身大の生きざまを感じさせてくれる。

 そして『毎日がアルツハイマー2 関口監督、イギリスへ行く編』で、「パーソン・センタード・ケア(P.C.C.=認知症の本人を尊重するケア)」という言葉に出合った関口監督は、自ら、認知症介護最先端のイギリスへ飛ぶ。認知症の人を中心に考え、その人柄、人生、心理状態を探り、一人ひとりに適切なケアを導き出す方法を持ち前の英語力を発揮して学んでいこうとしています。

 10年に及ぶ長期の見守りのなか、母親の表情はあきらかに変化していきます。抑制が利かなくなって喜怒哀楽がストレートに発露された初期段階。徐々に表情が失われ、反応しなくなる現在。ツイートには今、この瞬間の母の表情が紹介されています。

 一度は観ておきたい作品でした。なお、[レビー小体型認知症」については、自らの母親の介護経験を持つ熊谷まどか監督による『話す犬を、放す』がありますが、趣は相当違いますな。

 

 

著者

fat mustache

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