ずいぶん前から定額制のストリーミング画像の発信が盛んになって、今やDVDで持つなんて古いよっ!と言われてしまいそうだが、そういう古いタイプも居るってことを分かって欲しい。VTRの時代からレンタルに馴染んでいた私は、当時1万数千円もするVTR作品を買い求める余裕はなかった。ところが、DVDの地域指定どころか、まったく違ったβ方式とVHS方式の二つがあり、不覚にもβ方式のデッキを買ってしまったため、大勢の決した時点でVHSのデッキも買うはめになってしまった……。

 高価なビデオデッキを二つも持つなんてバカだなぁ、と思ったがダビングできることに気づいてレンタルビデオのいくつかをコピーしていたこともあった。その経験をしている者にはセルDVDが数千円なんて、凄い時代になったもんだと感心したことを印象深く憶えている。

 ただ、高価なものほど入念に吟味するし、時間をかけて本当に欲しい物を絞り込んで、コレだっ!と決めた作品を意を決して買い求めるということになり、実は、いくつかの候補のなかからアレコレ考えながら、決断していく過程が、もっとも楽しいひとときになっていたのかも知れない。映画への思い入れもさることながら、その時々の状況で好みが左右され、一貫性があるわけでもないが、それぞれのパッケージを見るだけで当時の思いが蘇ってくる。

 そんな自分にとってストリーミングってどうよっ! いつどこでも、何度でも好きなように観られる利便性には感服するけど、私は観るってことだけじゃないんだなぁ……。って考えてしまう。もっと、その余韻を楽しませてよ、と訴えたくなる。

 『最後の追跡』はNetflixだけで発信されている2016年のアメリカ映画。劇場公開もなければDVDでの発売もないッ。でもアメリカの映画サイトRotten Tomatoesではオールタイムベスト(1位は『市民ケーン』)で73位にランクされている話題作なのだ。

  脚本を手がけたテイラー・シェリダンという人は、辺境の地で慎ましやかに生きている人びとに寄り添った心遣いに特徴をみせている。NYやLAといった大都市で、近代的な生活を謳歌し、ポリティカル・コレクトネスを声高に叫びながら、人種的偏見や銃所持を非難するだけの輩に現実のアメリカ、自然の驚異に晒されながら、自分たちの生活をなんとか維持しようと努力している人びと。世の中にはおまえたちの安穏な生活を支えるために、こんな苦労している連中が居るってことを忘れるなよ!と言い続けている。

 テキサス西部の片田舎で発生した連続銀行強盗事件。その捜査担当となったテキサス・レンジャー。登場する人物は、YUPやHipsterから見れば完全な鼻つまみ者。相棒のネイティヴを口汚くからかい続ける老レンジャー、がさつな所作と相まって「なんだ、こいつ……」と思わせる。事故(?)とはいえ、父親を散弾銃で殺して刑務所暮らしをくり返す根っからのワル。どうみてもインテリジェントビルの中では出会いそうもない人たちの営みに愛情溢れた眼差しで向き合っている。

 強盗の原因は、銀行の過剰貸し付けと冷酷な返済督促。『怒りの葡萄』以来くり返される農業地帯の悲劇を映し出している。道路沿いに立ち並ぶ高利貸しの看板、銀行の壁に残された落書き、家畜の居なくなった牧場……。無残な光景に胸が痛む。

 『ダーク・プレイス』と酷似する設定。見られたくないアメリカがてんこ盛りで、かつてオバマの言っていた政策がいかに上滑りなものだったかを痛感させる。

 シェリダンの関わった前後の2作『ボーダーライン(2015)』 、『ウインド・リバー』も一見の価値ありでっせ。

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著者

fat mustache

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