ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門オープニング作品に選出されたという『真実』は、是枝裕和監督がカトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークという錚々たるキャストを使ったフランス・日本合作の映画。なんと、9月17日のNHKの「クローズアップ現代」で是枝監督と英国の映画監督ケン・ローチ氏の対談が放送されていた。その内容は10月公開の『真実』とケン・ローチ監督の12月公開予定の『家族を想うとき』を取り上げて、それぞれの監督の社会への想いを語り合ったものでした。つまり、NHKが、この二つの映画宣伝をしているようなものだということ。

 映画好きの私には面白かったのですが、「クローズアップ現代」は、ニュース解説や、より踏み込んだ考察を加える番組だと思い込んでいるので、かなり違和感を覚えました。

 その番組の中で彼らの語ったことを加味すると、是枝監督の「家族」に対する想いが、かなり分かってきたような気持ちになりました。

 これまでの作品から是枝監督は「家族」という社会への未練というか、幻想というか、人が緊密な繋がりを持てる唯一最後の集団と考えていて、その修復こそが分断された現代社会を蘇らせると考えているのだろうと勝手に思い込んでいた。実際のところは、「家族」という社会は既に溶解しており、今やそれぞれの個人は、その個性が多種多様であるように、自分にだけ適合した各種の二次的集団を選択し、その集団のなかでの立ち位置も、自分の都合で調整している状態なのた。

 なにを訳わからんこと言ってるんだッ! と思われそうですが、なにもせずにジッとしていても何かとかまってもらえる昔の「家族」とか「ムラ」(地域社会)という集団は、とっくの昔に消滅しているんだよ。消滅しても残滓が色濃く残る場所は今でもあるので、田舎暮らしが憧れの的になるのかも知れないということだ。養育するはたらきのある「家族」は今でもその機能を持っているように錯覚するが、子どもじゃなくて、アイデンティティを持った「人間」にとっての家族は会社や学校となんら変わりはない。

 だから『真実』に出てくる家族には、「家族」を当たり前の存在として、互いの思いを考えることもなく、バラバラになっていたものが、それぞれが相手の立場を考え始めるとともに程よい距離感を持つようになる過程が示されている。つまり、もう少しずつ気遣いをしないと、今の「家族」はたちまち崩壊するということの裏返しなのだ。

 その崩壊を描いた傑作が『葛城事件』。何度も劇場にかけられた脚本は練りに練られていて、自殺をはかろうとして失敗した直後に黙々とご飯を食べるラストシーンにしばらく席を立つことができなかった。

 おっと、カトリーヌ・ドヌーブの前作に触れるのを忘れていた。ドヌーブとカトリーヌ・フロの二大女優のために当て書きされた『ルージュの手紙』だ。隠忍自重、献身的に家族のために生きるフロ演ずるクレールのもとに父を自殺に追い込む別れかたをして音信不通だった継母ベアトリス(ドヌーブ)から連絡が来るところから話は始まるが、ドヌーブ演じるベアトリスの自由奔放、刹那的な生き方が妙に今作とかぶって見える。周囲の人からみれば、好き勝手にやりたい放題に生きる自由人に映るが、彼女がクレールに投げかける言葉に縮こまっていた自分の視野の狭さを気づかされる。これを観ておくと、『真実』の理解がより一層深まるかも……。知らんけど。

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