まだ2作しか観ていないが、アリ・アスターっていう監督さんには独特の感性を感じる。何となく、その対人関係の結び方(決して本人を知っているわけではないが……)に常人にはない特別なものを感じ取ってしまうのだ。

 私自身がいじめられっ子であったため、人一倍、他人の視線に敏感だ。チョッとした表情の変化や何気ない舌打ち、あるいは視線の避け方などに過剰に反応してしまい、一体、自分の何が悪かったのだろう……と思い巡らせて、しばし逡巡する経験を多数してきている。たいていは思い過ごしばかりで、勝手に自分を追い込んで、辛い時間を過ごすことになるのだが、人には言わないが、これが結構辛いッ。重苦しい淀んだ空気に包まれて、見るもの全てにグレーのフィルターがかかったような日々を過ごすことになるのだ。

 この監督の2作目、『ミッドサマー』を観てきた。スウェーデンの寒村における夏至祭を取り上げたホラーという触れ込みだが、眩い光に溢れた初夏の風景が何か、薄暗いフィルターがかけられているように明るさを感じることがない。その何となく暗~い雰囲気からホラーなのか? とは思うが、自分にはホラーの印象は薄かった。

 むしろ、スウェーデンに赴くまでの主人公の女性の醸し出す雰囲気。恋人への迫り方。他人に感じるあの雰囲気をそのまま口に出して、安堵感を得るための行動を彼に強要する態度。普通なら恥ずかしくて絶対表に出すことの無い感情を露わにする態度に、独りよがりの横柄さを強く感じてしまった。

 どうもそれは家族全体がそうであったらしく、彼女以上に繊細な妹は両親を巻き込んで心中してしまったらしいようです。

 そんな彼女が、恋人と友人たち、彼らは大学院で文化人類学か民俗学を専攻している勉学仲間。彼らと90年に一度開かれるという古代からの伝統文化を色濃く残した奇祭に赴くことになります。

 それは、生きることが精一杯の時代、生と死が混在する世界。死が全ての終焉を意味するのではなく、ありとあらゆるものに魂が息づいている場所。現代の宗教観や価値観に立つ私たちには想像もできない世界。そのスピリチュアルな雰囲気に浸って、エロさやグロさを感ずることもなく、むしろ、厳粛な連綿と受け継がれる人類の営みを垣間見たっていう感じになりました。監督が何度も観たという『楢山節考』(1983)に似た鑑賞後の感覚。現代の科学的思考のなかで失われた自然への畏怖や恵みへの感謝の感情。

 なんとも不思議に心にひっかかる映画でした。古代ゲルマンにひっかけた良く似た感じの奇祭を描いた映画だったら『ウィッカーマン』(1973)かな? 題名だけで探さないで、ニコラス・ケイジの『ウィッカーマン』(2006)とはちゃいまっせ!! こっちは紹介も憚るような駄作。

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fat mustache

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