夏休みのこの時期に8時には開演する例のシネコンで『パラダイス・ネクスト』を観た。公開間もない時期だったが、早朝ということで観客は私を入れて二人!! 何ともゆったりとした気分で、存分に楽しみました。

 この半野喜弘という監督さんは今までアジア映画の音楽を手がけて高い評価を受けている人らしい。だからというわけか、音楽が画面とマッチしてとても良い雰囲気を醸し出している。あまり知らなかった台湾の東海岸の観光プロモーションビデオのような美しい風景が連続して、「行ってみたいナァ……」と感じさせる。ただ、それぞれの人によって感性が違うからか、私とはいささかポイントがずれていたように思えてしまう。 

 印象的な画面や目に焼き付く構図の連続に、なんか脈絡が感じられない。冒頭から言葉が発せられるまでの「間」がいやに冗長で、こんなところで含みを持たすってのはなんなんだろう? っていぶかしげに観てしまうので、すんなり展開について行けない。なんだかなぁと思っていたら終盤の急展開。そこに余り必然性を見出しきれなかったので、消化不良のまま劇場を後にした。

 ノワールな雰囲気だけは一貫していたが、制作者側が分かっていて当然と思っているプロットが今一つ理解できなかったために、二時間の尺がひとつに繋がらずに結局は画として印象的な部分を繋ぎ合わせて無理矢理話のつじつまを合わせたってことじゃないの!! と感じてしまった。

  なんかもったいない気がしました。もう少し編集に時間をかけて入念に構成したら、見方が変わっていたかもしれません。

 サスペンス・ノワールを徹底した作品と言えば、最近では『愚行録』が頭に浮かびます。主役を同じ妻夫木聡が務めますが、こちらは徹底したどす黒さ。人間の持つ悪意の部分を拾い集めて凝縮すると、こんな感じになるのかなぁと思わせる。ひょっとしたら、妻夫木へのキャスティングもこの映画があったからかと思わせるほどハマっている。

 画面のトーンもどんよりとした曇り空のように重苦しく、ハッピーエンドで日常の憂さ晴らしをしたい人にはゼッタイ向かないが、映画のなかで起こる出来事の一つ一つが自分と全く無関係の別世界とは言えない心の闇の部分を強く意識させられるものでした。

  私にとってはホラー映画より、こっちの方がムチャクチャホラーだ!! ゾッとする。

著者

fat mustache

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