三谷幸喜監督の『記憶にございません!』が絶好調。興収ランキングでもブッちぎりのトップ。衆人受けする内容もさることながら、フジTV製作の映画なのにNHKまでもが番宣気味のインタヴューを放送したり、なんだ、これはっ?! TV各局総出での盛り上げに異様さを感じるほどだ。

 ところで、どの番組かは失念したが、三谷監督が「私は業界外の人間なので……」と語っていたことが印象に残った。映画人と言われる人たちには、なんらかの主張を込めた作品を作ろうとする傾向が強いように思うが、どうやら三谷監督はTVドラマのシナリオで育ったことを自負していて、万人が楽しめる内容に徹底しようとする姿勢がハッキリと窺える。決して声高な自己主張を織り交ぜた内容にはしないで、観る側の考えでどうとでも取れるディテールをはめ込んではいるものの、それはさりげなく、ひっそりと埋め込まれるように配置されているので気づかずにスルーしてしまっている部分も少なくない。

 ここまでやるかっ! っていうほど豪華なキャスティング。誰もが感じている悲観的にならざるを得ない政治状況。もう、なんの改革も望めないような情勢。70年停滞したままの左翼思想。定型化した官僚機構。どうにもならないと感じている人びとが頷くような体たらくの内閣を描いて、流韻を下げさせる。

 長年暖めてきた構想という触れ込みだが、恐らく今日の情勢に一矢を報いる意図が働いているに違いない。前田有一氏のような硬派の批評家にはもの足りないのかも知れないが、ここは広く万人に知らしめるマスコミと起源を一にするTV業界が仕掛けているということが重要なところ。「家族」など社会の伝統的な価値体系が崩壊していくアノミー状態に陥った今だからこそ求められる指針。本来はそういった将来ビジョンを掲げて国民に訴えるべき政治の在り方をやんわり指摘しているのだ。

 よく似た前作『ステキな金縛り』は裁判員制度が本格稼働した時期にぶつけて公開している。これも幽霊(亡霊)が証言台に立つなんて、突拍子も無いことを描いているが、陋習にまみれて形骸化のそしりを受けそうな裁判制度に新風を吹き込んで刷新しようとする試みを積極的に活用することを念願して組み立てられたストーリーだと思う。

 ゲラゲラ笑って終わりそうだが、何らかの意図を時宜を踏まえて読み解こうとしながら観てみると、今までとは違った新たな発見をするかも知れませんぜ。

 

 

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著者

fat mustache

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