隣人トラブルを扱った映画にはホラーが多いようだ。『クリーピー 偽りの隣人』(2016)とか『隣人は静かに笑う』(1998)なんかが思い出される。本来、気を許してお付き合いが出来るはずのお隣さんがトンでもない人ッ!!っていう設定で始まるホラーは観た当時は戦慄を覚える怖さにたじろぐくらいだったけど、どう考えてもお隣にサイコパスキラーが住んでいたり、狡知極まりない爆弾魔が入念な計画に基づいて住み始めたりってシチュエーションが日常に転がっていることは絶対に無いッ!!

 だから、次から次へと展開される場面にも自分の身には起こり得ない絵空事として、気楽な気持ちで楽しんでいたが、『隣の影』(2017)はゾクゾクッとする恐ろしさに身が震えた。

 まだ、公開されたばかりなので、詳細は控えますが、コメディタッチながら我が身に起こりうる事柄として、真剣に考えてしまった……。

 お隣りってことは、お名前はもちろんのことご家族の構成やお仕事、ご親族のお顔やお住まい先……、結構知っているものです。名古屋に居られる長男さんは今年は帰ってこられなかったみたいだなとか、お嬢さんにお二人目のお子さんが出来たみたいで、今はこちらで過ごして居られるみたいだ、元気な泣き声が聞こえるから……。全くの他人? 地域の他の方々とは違って親近感が濃密で、あちらも私たちのことを気に掛けていただいているのだろうという安心感が心地よい。

  つまり、家族や友だちのような濃密な関係ではないものの、多少なりとも親密感のある人たち、良好な場合は頃良い距離感を保った心地よい人間関係ってことになる。

 映画の舞台となるアイスランドは国全体の人口が35万余り、もともとはデンマーク領であったこと、第二次世界大戦でデンマークがドイツに占領されたのを機に、アメリカとイギリスが駐留したこともあって、デンマーク語、英語も学校教育で教わるのだそうだ。生活水準の高い穏やかな生活をおくる国である。 都市人口率は2000年時点で92.4%に達していて、ほとんどの人がレイキャヴィーク、ケプラヴィーク国際空港のあるケプラヴィーク、国内第2の都市のアークレイリなどに集中している。

 言っても、総人口が35万ということだから、落ち着いた地方都市って雰囲気だろうか。都市生活の快適な部分を享受しながら、ご近所との関係は昔ながらの濃密なもの。なんと理想的な住環境かッ! 今の自分の置かれた状況も田舎ながらもネット通販の発達で不便さをさほど感じないので、よく似た環境と言える。

 そういったなかで、もし、隣人にチョッとした不信感を抱いてしまったら……。よくよく考えたら、ご近所のことを熟知しているわけでもない。その人たちの置かれた状況を理解しているわけでもなく、ただただ悪い方向に考えてしまう。それがエスカレートしていったら……。

 コメディタッチで描かれていたから全体のトーンは明るいが、こみ上げてくる恐怖感はハンパない。ちょっと立ち止まって、冷静に考え直せば大事に至ることはないのだろうが、たまたま自分の置かれている状況が余裕のない切羽詰まった中にあったら、なにもかもを悪い方向に考えて、相手の悪意が尋常ないと考えてしまい「可愛さ余って憎さ百倍」のような立場に置かれてしまうのでは……。

 自分にも降りかかりそうな惨事。やってしまいそうな行動。

 本当に怖いのはこんな映画ですな。アイスランドを舞台にしたTVドラマ『トラップ 凍える死体』も結構面白いでっせ。Netflix でやってるよ。知り合いばかりの小さな町、押し寄せる外国人。このシチュエーションはアイスランドならでは。